「DJコール」につつまれて~グリーンの情景①~

「またか」…、そんな思いはよぎらなかったのだろうか?


それは12番ホールのティーであった。

彼は競技委員から、5番ホールでのプレーがペナルティになる可能性があることを伝えられた。“またか”というのはこれまで、彼はもう一歩のところでメジャータイトルを何度も落としているからだ。


2010年の全米プロでは3人でのプレーオフと思われたが、バンカーと思わずソールをしたためペナルティを取られ5位タイ。


昨年は、全米オープンで、イーグルオンからの3パットで2位。全英では、3日目までトップながら最終日に大きく崩れ49位タイ。


“悲劇のヒーロー”という言い方はキレイだが、一歩間違うと“持っていない男”になりつつあった。


しかしながら、今年は違った。

16番PAR3。ティーショットはグリーン左へ。スプリクラーヘッドの脇にボールが止まる。あえて救済を受けずに打つが、下りのラインに乗り微妙な距離が残る。


誰もが固唾を飲む中、これを沈める。

静寂を突き破るような歓声と共に、どこからともなく「DJコール」が湧きあがる。


17番も、右のバンカーに入れたがPARで切り抜ける。


そして18番。ティーショットはフェアウェイへ。スコアボード上は2位とは3打差に拡がっている。誰もが、昨年の雪辱を果たすことを確信したことだろう。


だが、実際は2打差。

歓声の渦の中、彼は2位のS.ローリーがバーディー、自分がボギーなら、プレーオフという状況ということを分っていたはずである。


そして、2打目。躊躇することなくピンを狙っていった。

ストレートに打たれたボールは、ピンから約1mで止まる。


“DJ!” “DJ!” “DJ!”。

そしてマスターズでの鬱憤を晴らすかのように“USA”コールがこだまする。


タイガー不在の中、久しぶりと言ってもいい熱狂が18番ホールを包み込む。

パターにコツンと当てたボールはカップへと吸い込まれた。

バーディフィニッシュ。


何度も手からすり抜けていったメジャータイトルを、彼は自ら引きよせた。


もし、殻を破る音というのがあったのなら、最終パットがカップに落ちた瞬間の音はまさにそれであったように思える。


殻を破った彼には、グランドスラムすら期待できる“何か”を感じずにはいられない。

そして2週間後のWBCブリジストン招待。

彼は、再び「DJコール」中にいた。


0コメント

  • 1000 / 1000